2021年5月

緩徐進行1型糖尿病の治療について

院長ブログ

緩徐進行1型糖尿病と経口剤治療についての考察

松前内科医院 松前裕己

 

初診時の糖尿病の状態がインスリン非依存性であることから、2型糖尿病として治療を開始されている患者のうち、約10%には抗GAD抗体が陽性であることが知られている1)。

これらの患者は、緩徐進行1型糖尿病と診断される病態であり、近い将来にインスリン依存状態に進むので、臨床上インスリン導入の時期を通常の2型糖尿病患者とは別に検討する必要がある。

Maruyamaらは、緩徐進行型1型糖尿病の患者に対して診断早期にインスリン治療を開始するとインスリン分泌能低下の進行を抑制してインスリン依存状態となる時期を遅らせることができたと2008年に報告している2)。ただ、この研究では、対照群にSU薬を用いており、SU薬がインスリン枯渇を早めた可能性についても考慮する必要がある。

一方、2014年にZhaoらは、インスリン非依存期にある緩徐進行型1型糖尿病患者に対して、DPP4阻害薬であるsitagliptin を投与した前向き研究において、sitagliptin投与がβ細胞機能の維持に効果があったと報告している3)。

 

日本糖尿学会発行の糖尿病治療ガイドライン2019では、緩徐進行1型糖尿病の治療法において、できるだけ早期からインスリン治療を開始することが好ましいと記載されているものの、その根拠となるエビデンスは少なく、学会からは推奨グレードB以上をともなうステートメントは未だなされていない4)。

 

このように現時点では、臨床レベルにおけるガイドラインはなく、各医師の裁量のもと診療が行われている。少なくとも初診から抗GAD抗体などの陽性がわかるまでの間は、経口剤治療が行われている場合が多い。また、緩徐進行1型糖尿病は未診断の患者が多く、その実数はインスリン非依存状態の患者の10%にのぼると考えられている。

現状において、インスリン非依存期にある緩徐進行1型糖尿病の治療において経口剤を否定することは、インスリン治療と一部の経口剤しか認めないことになり、経口剤治療を行っている実際の治療現場には多くの混乱と異論を巻き起こすことが予想される。

以上の点から総合的に考えると、現状においては、インスリン非依存期にある緩徐進行1型糖尿病患者の治療における経口剤からインスリン治療への以降時期については、現状では従来通り担当医師の裁量に委ねるのがよいと考える。

 

緩徐進行1型糖尿病においては初診時に指摘されず2型糖尿病として治療されている見逃し例が多いと考えられる。経口剤治療で治療をしても反応が悪く比較的早期にインスリン分泌が低下してくる症例においては、緩徐進行1型糖尿病の可能性を常に念頭におき、抗GAD抗体や抗IA-2抗体を検査する5)6)ことで合併症発現前に緩徐進行1型糖尿病の病態に気づき、時期を逃さずインスリン治療に切り替える判断が求められる。

 

 

 

1) Clinical Characteristics of Slowly Progressive Insulin-Dependent (Type 1) Diabetes Mellitus (SPIDDM): 1st Subcommittee Report on SPIDDM, Committee on Type 1 Diabetes, Japan Diabetes Society

Shoichiro Tanaka1), Takuya Awata2), Akira Shimada3), Satoshi Murao4), Taro Maruyama5), Kyuzi Kamoi6), EijiKawasaki7), Koji Nakanishi8), Masao Nagata9), SumieFujii10), Hiroshi Ikegami11), Akihisa Imagawa12), Yasuko Uchigata13), Minoru Okubo14), HaruhikoOsawa15), Hiroshi Kajio16), Akio Kawaguchi1),

Yumiko Kawabata11), Jo Satoh17), Ikki Shimizu18), Kazuma Takahashi17), Hideichi Makino19), JunnosukeMiura13),

Toshiaki Hanafusa20), Tetsuro Kobayashi1) and Committee on Type 1 Diabetes

JDS 糖尿病 54(1):65~75,2011

 

2)Maruyama T, Tanaka S, Shimada A, Funae O, KasugaA, Kanatsuka A, Takei I, Yamada S, Harii N, Shimura H, Kobayashi T (2008) Insulin intervention in slowly progressive insulin-dependent (type 1) diabetes melli- tus. J Clin Endocrinol Metab 93: 2115-2121

 

3)Yunjuan Zhao,* Lin Yang,* Yufei Xiang, Lingjiao Liu, Gan Huang, Zhaofeng Long, Xia Li, R. David Leslie, Xiangbing Wang, and Zhiguang Zhou

Dipeptidyl Peptidase 4 Inhibitor Sitagliptin Maintains -Cell Function in Patients With Recent-Onset Latent Autoimmune Diabetes in Adults: One Year Prospective Study

J Clin Endocrinol Metab, May 2014, 99(5):E876 –E880

 

4)日本糖尿病学会編 糖尿病診療ガイドライン2019

 

5) 抗GAD抗体、 抗IA-2抗体の有用性 コズミックコーポレーション

 

6)  慶應義塾大学医学部内科 及川 洋一

CDEJ のための情報アップデート “抗 IA-2 抗体”って知っていますか?

緊急事態宣言に伴うわくわく教室中止のお知らせ

新着情報

こんにちは、松前内科医院栄養課の纐纈です。

5月と6月に開催を予定しておりましたわくわく教室ですが、本日から緊急事態宣言

対象地域に愛知県が追加となりますので、中止させて頂きます。

7月のわくわく教室の開催については感染状況を考慮しながら、決定次第

ご案内申し上げます。

皆様にはご迷惑をお掛け致しますが、ご理解とご協力の程宜しくお願い致します。

 

 

体調不良の方・PCR検査をご希望の方へのご案内

新型コロナウイルスに関する新着情報

松前内科医院では、新型コロナウイルスのPCR検査・渡航のための陰性証明書の発行を実施しています。また、発熱や頭痛、腹痛、下痢などの体調不良が少しでもある方は、車内でPCR検査を受けて頂いたあとに医師と電話での診察となります。

〇検査の流れ

WEB問診(どうしても難しい場合はお電話で承ります)を送信後、電話連絡をして頂きます。

②送信された問診を確認し、検査の内容を医師が判断します。

③来院時刻を決めます(検査は予約制です。朝は9時~11時半、午後は16時~18時半まで、15分刻みでご案内しています)

④松前内科医院に到着したら、建物の裏(北側)にある屋根付きのカーポートに車を停めていただき、車に乗ったまま、お電話で到着連絡をお願いします。※タクシーや徒歩、自転車などで来られた方も、カーポート付近までお越しの上で、ご連絡ください。

⑤看護師が向かい、検査を実施します。その後、電話診察等を行い、お支払のあとご帰宅いただきます。

各種検査の説明は、過去の新着情報にも詳しくあげておりますので、ご参照ください。

〇検査費用(自費の場合)

PCR検査:31130円 

陰性証明書の発行:日本語は1100円、英語は3300円

〇結果のお伝え

早ければ当日中ですが、混雑状況によって翌日以降になることがございます。

海外渡航の場合、陰性証明書は翌日午前(休診日は除く)のお渡しになります。

 

・PCR検査

感度98%、特異度ほぼ100%と精度の高い検査です。

・抗原検査

感度は50~90%となりますが、発症日から数えて2日目~9日目までに検査をすることで信頼できる結果を得ることができます。無症状の方、症状が出てから24時間以内の方は、偽陰性の可能性が高いため、検査を実施できません。医師の判断によっては検査の種類はご希望に添えない場合もございます。

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